不眠症の治療を進めるにあたって睡眠薬は欠かせない存在ですが、どんな睡眠薬でも同じように効果が発揮されるわけではありません。
薬の“合う合わない”は個人差によるところが大きいですが、その個人差とは何を指すのでしょうか。
体型や体質はもちろんですが、抱えている不眠の症状が重要なポイントです。
ひとくちに不眠症といってもその症状は人それぞれ。
「どんな風にどのくらい眠れないのか」という個人差に合わせて薬を選ばなければ、症状の改善は見込めません。
睡眠薬の服用をはじめる前に、自分がどんな症状に悩んでいるのかということを正確かつ詳細に把握していることが大切なんですね。
どのタイプ?まずは不眠の症状を知ろう
それではまず、「眠れなさ」について考えてみましょう。
不眠症は睡眠障害の現れ方によって、大きく4つに分けられます。
寝ようと思ってもなかなか眠ることができません。
床についてから30分~1時間以上経っても眠れないことが目安とされています。
2、中途覚醒
一度は寝つけるものの、何度も目が覚めてしまいます。
夜中に起きてしまうと再び眠ることが難しく、睡眠を維持できない症状です。
3、熟睡障害
十分な睡眠時間がとれているにも関わらず、よく眠ったという満足感が得られません。
熟睡感がないために身体の疲労が残りやすくなります。
4、早朝覚醒
起床の予定時刻よりも2時間以上早く目が覚めてしまいます。
一度起きてしまうと、二度寝することは困難です。
いずれの症状も、週に3日以上の頻度で発生し、それが3ヵ月以上続いていると不眠症と診断されます。
症状を感じているだけで、眠れないことが精神的負担になっていない・日中の活動に支障をきたすことはない、という場合には不眠症とは言いません。
また、現れる症状はひとつとは限らず、「なかなか眠れないうえに眠りが短い」というように複数の障害が同時に現れる人もいます。
睡眠薬によって作用時間は異なる
睡眠薬へ視点を移してみましょう。
薬の成分によって、身体へのアプローチや作用の持続時間はさまざまです。
・GABA受容体作動薬
脳の活動を落ちつけて、眠りやすいコンディションを作ります。
催眠作用や筋弛緩作用によって、睡眠を維持する働きも。
・メラトニン受容体作動薬
太陽が昇ると覚醒し、陽が沈むと休息モードに入るように切り替えを促して、体内時計のリズムを整えます。
・オレキシン受容体拮抗薬
脳を覚醒させる作用を抑制し、眠りやすい脳内環境へと促します。
この中でもっとも睡眠薬として効果が感じられやすいのが、GABA受容体作動薬です。
ほかの2種類は、じんわりと身体に馴染ませていくタイプの薬なので、人によっては効果が乏しく感じるかもしれません。
つぎに、効果の継続時間についてみていきます。
薬の作用は、成分の血中濃度に左右されます。
血中濃度が高くなると効果が現れて、濃度が下がるにつれて効果は薄れて行きます。
成分の血中濃度がマックス~50%に変化していく時間≒作用時間として表されていて、
・短時間型(6~12時間)、効果が感じられるまでに1~3時間
・中時間型(12~24時間)、効果が感じられるまでに1~3時間
・長時間型(24時間以上)、効果が感じられるまでに3~5時間
と分けられます。
翌日への影響が少ないのは超短時間型ですが、睡眠時間をしっかりと確保したいという場合には短時間型や中時間型を用いる場合があります。
睡眠障害×睡眠薬、適切な治療のために
では、不眠症の症状と睡眠薬の種類について、具体的に照らし合わせてみましょう。
「今日から眠れるようになりたい」という場合にはGABA受容体作動薬がおすすめですが、より自然に眠れる体にしていきたいと考えるならメラトニン受容体作動薬を使います。
アモバン、ルネスタ、マイスリーなど
GABA受容体作動薬による鎮静・催眠作用、筋弛緩作用によって眠りを維持します。
デパス、レンドルミン、サイレース、ロヒプノールなど
入眠障害の場合、何といっても即効性が重要になってきますが、効果が早い分抜けていくのも早いという特徴があります。
これは、翌日への持ち越しが少なくスッキリ起きられるというメリットであり、長時間の睡眠は維持できないというデメリットでもあります。
中途覚醒や早朝覚醒を併発している場合には、多少寝つきが悪く感じるとしても短時間型の薬を選ぶのがベターでしょう。
また、うつ病や不安障害から不眠症状が現れている場合には、抗不安作用が強いデパスを使うと気持ちの安定も図れます。
以上のように、「どんな症状をどう解決したいか」が薬選びのポイントです。
自分が悩んでいる不眠の状態と、それぞれの睡眠薬が持つ働きについての知識を深めることが、効果的な治療のカギとなるでしょう。